「悠々たる哉天壤、
遼々たる哉古今、
五尺の小躯を以て此大をはからむとす、
ホレーショの哲學竟に何等のオーソリチィーを價するものぞ、
萬有の真相は唯だ一言にして悉す、曰く「不可解」。
我この恨を懐いて煩悶、終に死を決するに至る。
既に巌頭に立つに及んで、
胸中何等の不安あるなし。
初めて知る、
大いなる悲觀は大いなる樂觀に一致するを。」
ふと、言葉が口を突いて出た。
藤村操。世界の理が解せない、故に自殺を謀った彼。私はそんな彼に憧れを抱いていたのだった。
……操様、貴方はもう萬有の真相を解せましたか?
天界なんて、極楽浄土なんて信じてはいない。人は死したら蛋白質の塊と成るだけだから。
――此処は如何やら公園らしい。私は脇のベンチに腰掛け、恍惚としていた。未だ見えぬ彼に想いを馳せてそっと瞼を閉じる。
「あら、雪かしら。」
私の鼻に何か冷たい物が触れ、私は其れを雪だと思った。曇天だったもの。
其れを確認す可く(べく)ゆっくりと目を開く。
「椿……ね。儚くて、悲しくてとっても綺麗。」
其れは雪ではなく椿だった。真っ赤な寒椿の花弁。丸で、鮮血の様な。艷かしさを漂わせた。

