私はたった今家を飛び出して来た許り(ばかり)。
今回で一体何度目の家出だろう。当世、家出なんて雅でも何でもない。
血縁の者は屹度(きっと)、心配さえしないだろう。

――いいえ。其れで良いの。
家族愛だとかそんな陳腐なモノ私は要らない。

私は綺麗なもの、風流なもの、耽美なもの。そんなモノ達を好む傾向がある。従って、こんな俗世界には殆(ほとほと)嫌気が差す。
酷く、憂鬱だ。

人より少し優れた容姿、人より少し理知的。だからかも知れない。私は其れを鼻に掛け、傍若無人に振る舞っていた。人を見下し、只管(ひたすら)傲慢に。

交際してる人も居る。
友達も居る。
でも、影が見える。
私の双眼は総てを見通すことが出来る。人の心も、世界さえも。
確かに私は舞い上がっている。そんな事位、自分でも理解してる。

私は時々何か弾ける様に有りと有らゆるモノに我慢が出来無くなる。感情が一気に洪水と成り、溢れる。
何、今に始まった事じゃない。


……何処を如何彷徨したのだろう。
天には闇の帳が降ろされているし、今は真冬。極寒だ。
其れも其の筈(はず)。私は外套すら羽織っていないのだから。