其れから暫く私は啜り泣いて過ごした。横隔膜の痙攣が止まらない。留処も無い涙が頬を濡らした。今は蒸発をし乾燥を始めている。
1時間……否、2時間は優に経っただろうか。今の私には時間を確認する術は無い。サーカディアン(概日)リズムも適応をしない。
彼は何時の間にか退出して終った。
……お腹が、空いた。
泪を流し過ぎて目も痛いし、痒い。肌もパサパサだ。素晴らしい彫りで縁取られた鏡が映す腫れぼったい顔は醜悪だ。
御風呂にでも入って此の為体(ていたらく)を何とかしたい。
私は意を決し、桃花心木(マホガニィ)のドアを開いて廊下に出た。
広い。 見渡す限りでも沢山の部屋が有る。丸でホテルだ。豪奢なシャンデリアや燭台が規則正しく並んでいて、壁には著名な芸術家が描いた絵画が掛かっている。
私は螺旋階段を発見してゆっくりと下っていく。
「コッペリア。」
彼だ。階段を綽然と下る私を口角を上げて見ている。
大広間。正にそう呼ぶのが相応しいだろう場所に居る。
「空腹だろう?ディナーを作ったんだ。」
……卑怯だ。美味しそうな匂いが充満している。私は其れに惹かれ、彼の後に黙って着いて行く。

