コッペリアの仮面 -琺瑯質の目をもつ乙女-


「イ……イヤァアアア!!帰して!帰して!私を帰して!」

私は後退りをし乍ら(ながら)叫んだ。頭(かぶり)を左右に激しく揺らす。腰迄も有る髪が顔面を打つ。
多分、目は有らん限りに見開いているだろう。連山の眉を張り上げて。

彼は丸で愛しいモノを見詰める様に私を眺める。
恍惚とした表情。然う、私が藤村操の事を考えていた様な陶酔した顔付き。思わずぞくり、と首筋が寒く為る。

「私ヲカエシテ!此の変態――!!」
私に平常心等破片程も無いに等しかった。
普段、滅多な事が有っても取り乱したりしない性なのに。常に仮面(ペルソナ)を貼付けている、其う心掛けていたのに。

パァァァン

乾いた音が響き渡る。

音を放ったのは、私の頬。触ると微かに熱を持っていて、ジンジンと痛む。

「コッペリア。僕にそんな口の利き方は許さないよ。」

彼からは微笑みが消えていた。
突然叩かれた事と彼の表情の冷徹さが重なって私耐え切れずに成り喚き泣いた。
丸で産まれた許りの嬰児の様に。
彼の洞察眼が私を射貫く。怜悧な頭脳を回転させて。

嗚呼、凍結してしまいそう。