香織さんはそう言った後


まるで血が通っていないかのような冷たい表情になり


何も言わずに遠くを見るような目をしていた




「矢崎直輝さんですね?警察です。お話を伺いたいので署までご同行を。」



「はい」








俺は警察署の取調室で
綾香との事について聞かれたが



法律上、俺が罪に問われる事はなかった。





俺が殺したのに





「ありがとうございました。もう帰って結構ですよ。」




事情聴取が終わると、俺はその足で病院へと戻った。





霊安室の扉を開けると

誠さんの眠る冷たいベッドの脇に置かれたパイプ椅子に座り

涙を流す事もなく、死んだような目で誠さんを見つめる香織さんの姿があった。




「香織さん……」


俺の声でやっと俺の存在に気付いた香織さんは


「………って……帰って………!!もう二度とあたしの前に現れないで………!!!!!!!!」


俺の所まで来ると、俺の胸を力一杯押した



「香織さん………!!」



俺は香織さんの腕を引き寄せ、香織さんを抱きしめた




「やめて……!!やめて!!!」



腕の中で震えながら
俺の肩を殴る香織さんの手は力をなくしていく――