昼休み

図書室のドアを開けるとまだ人はいなくて、ぶらぶら歩いているとあるコーナーで足が止まった。
そこには本棚に背をあずけ、前髪で隠された眼で本を読んでいた木下楓がいた。

私の視線に気づいたのか、隠された眼を私に向けた瞬間、驚いた表情をしてすぐにゆっくりと頭を下げた。

「今日も借りに来たんですか?」

私が笑ってそう言うと木下先輩はいや、と言って読んでいた本を棚にしまった。

「実は図書委員なんです…」

「えっ!?」

私は驚きのあまりに口がふさがらなかった。

「ずっとサボってたからね。だから返却の仕方とかも全然わかんなくて…」

木下先輩はへらりと笑った。

(あ、可愛い…)

そう思った後すぐに、男の人にそういう感情を抱いたのが初めてだったことに気づく。

(本当に好きな人かもしれないよ…沙希ちゃん…)

「名前聞いていいかな」

物思いにふけっていると木下先輩の声が耳を通った。

「えと、堀内真奈美、です…」

緊張なのか、言葉が途切れていく。

「じゃ、堀内さんさぁ、去年もここじゃなかった?」

「……何で知ってるんですか?」

木下先輩の言っていることが本当だったので、私は聞き返した。

「顔だけは覚えてたんだよね。一応3年間図書委員だったし」

またまた衝撃のニュースが入って私の頭の思考が完全にストップした。

気づくと、後ろからは人の声がだんだん大きくなってきていた。同じように気づいた木下先輩は、そろそろ行こうかな、とカウンターへ戻って行った。

(去年も一緒だったなんて……。もうちょっと周りを見とけばよかった…)

一人取り残された私は、その事だけを後悔していた。

その後、私は委員会の話し合いに全く集中することができなかった。