高い位置で束ねられた、目の覚めるような漆黒の長い髪、澄んだ瞳。

何より彼女を際立たせていたのは、このどんよりとした車内の空気を切り裂くような清廉さだった。


「お前も!」

「はっ、はい!!」


切れ長の目で睨み付けられて、突然現実に引き戻された僕は思わずビクリとした。


「お前も男なら黙ってないで自分で何とかしろよ!」

「えっ、はっはい!ごめんなさい、」


しどろもどろになった僕の隣では、今度は痴漢男が固まっていた。どうやら僕が男だって気付いてショックを受けているようだ。

(僕、制服なのになぁ…)


ガタンッと大きく揺れて、電車が止まる。その瞬間男は手を振り切ると慌ててホームへ飛び降りてしまった。


「あっ、こら…っ!!」


追いかけるように降り立った彼女に慌てて僕もホームに出た。
男は遥か向こうに脱兎の如く逃げてしまったようだ。


「えと…ありがと、ございました」


舌打ちをかました彼女に、とりあえずお礼を口にした。


「ふん…軟弱なやつだな」
「え」


キョトンとする僕を余所に、それだけ呟くと彼女は颯爽と歩いて行ってしまった。
同じ、制服だった。

「………。なんていう子だろ…」


呟いた僕の耳に、友人らしき女の子が彼女を「待ってよココ!」と言いながら駆けて行く音が届いた。