笑うピエロ店員。

「ん。気が変わったのかな」
お兄ちゃんは、ぼくが立ち去ったときと同じ体制でいた。
打っていたケータイを上着のポケットにしまう。

「ぼくが戻ってくるの、分かってたの」
ぼくは訊いてみることにした。

するとお兄ちゃんは、転がりそうなほど目を丸くしたかと思うと、唐突にのけぞって大笑いしはじめた。

そうすると今度は腹を抱くようにヒーヒー言い始める。

この笑いっぷりを見た芸能プロダクションが、ぼくを芸人にスカウトしに来ることは確実だ。

「あーあ。笑った笑った」お兄ちゃんは呼吸を整える。

「そんなこと、いくらおじさんだからって分からないよ。分かるのはその人の明日の善し悪しだけ」

「でも、じゃあなんであんなに冷静だったの」

「別に冷静じゃあなかったよ。期待もしてなかったし。来なかったらあの手この手で売らせようと思ってたけどね」

「あの手この手」のとき、お兄ちゃんが手を魔女のようにうねらせると、妙にぼくの体がゾクッとした。だけど、すぐに元に戻った。