室内に先輩が入室して来た。

痴話喧嘩を目撃されるのもみっともない。

「何だ永瀬、相変わらず彼女がデートの催促か?」

「ええ…まぁ」

適当に相槌を打っておく。

と。

「永瀬」

温和な笑顔を浮かべていた先輩から、一瞬にして笑みが消える。

まるで凍りつくような、無機質な表情。

「余計な事は喋るなよ。お前が余計な事を口外すれば、親兄弟だろうと、それなりの『処置』をしなけりゃならん…近しい人間を危険に晒したくなければ、軽々しく口は開くな。いいな?」