「とっ、泊まったってお前…」
「本当だよ。彼の家に居る時はずっと彼の側にいるんだ」
焦ったような反応をする先生がおかしくて、揶揄するようにそう言うと、先生はなにを想像したのか顔を赤くした。
「…だっ、だからと言って、それが煙草を吸っていない証拠にはならん!」
赤くなった顔を誤魔化すように先生は大声を上げる……。
「だったら先生、調べてみれば…?」
私はそう言って口を大きく開けて舌を見せた。
背伸びして先生の顔にそれを近付けると、先生は更に顔を赤くさせた。
そんな様子に私はクスリと笑みを零す。
自分の親ほど歳の離れた大人だが、私にはこの男が可愛く見えた。壱さんに比べれば、この男はまだまだ子どもで可愛らしい。
中年オヤジ相手にそんなことを思う私は、どこかおかしいのだろう……。
あの老人‥壱さんを出逢ってしまってからの私は、普通の中学生としての感覚が麻痺してしまったのだ。
「じゃ、もうすぐHR始まるんで……」
そう言い残して教室へと向かう。
歩き出すと同時に揺れた自分の髪の毛からは、確かに壱さんの煙草の匂いがした……。
誰とも言葉を交わさずに教室の席に着くと、私は煙草の匂いの染み付いた髪の毛を一房掴んでその匂いを吸い込んだ。
壱さんの匂いに胸の奥がぐっと苦しくなった。早く逢いたいという気持ちが溢れて、苦しくて堪らなくなる。
髪の毛を掴んでいた指先に小さな火傷痕に、私はそっと唇を落とした……。

