もっと陽の当たる場所へ


「今日は雨降ってるから行きたくないな」


嘘。雨が降っているからじゃない。壱さんの側を離れたくないからだ。

今日みたいな嫌な目覚め方をした日だと尚更そう思う。


「追い出されてぇのか」

「……冗談だよ。ちゃんと行くよ」


私が学校に行きたくないと言うと、壱さんはいつもこうして叱る。

どうしてそんなに怒るのかと、以前訊ねたことがある。


――俺は学校には通えなかった


それが壱さんの返事。

時代のせいなのか、私はその話がいまいち理解できなかった。
けれど、壱さんの話を聞いてからは、ちゃんと学校へ行くようにしている。




……でも、学校なんてつまらない。

縛り付けるような先生の言葉にはうんざりするし、楽しくない。

今日なんて特にそうだった。


教室へ向かう途中。廊下で先生に呼び止められた。


「煙草臭いぞ。お前、吸ってるだろ」

「…は?」

見に覚えのない言葉に思わず間抜けな声が漏れてしまう。

そしてすぐに気付いた。煙草の匂いがするのは、壱さんのせいだ。彼の家に居座り続けていたせいで、私にもあの煙草の匂いが付いたのだろう。

そう自己解決をする私をよそに、先生は恐い顔をして私の腕を掴む。


「生徒指導室に行くぞ」

「ちょっ…先生、セクハラ!」

そう大声を上げると先生は慌てて手を離し、苦々しそうな目で私を見た。


「ていうか、私が煙草吸ってるとか誤解だから」

「誤解…?だったらなんでお前から煙草の臭いがするんだ」

「彼氏のだよ。昨日泊まったから、匂いが付いちゃったみたい」

その言葉の半分は嘘。

壱さんは彼氏じゃない。そうだったら良いと私は思っているけれど、壱さんは絶対に首を縦に振ってはくれないだろう……。