「ねぇ、今日も泊まっていい?」
雨の降るなか家に帰るのが憂鬱だと思った。
……というのは建前で、ただもう少し壱さんの側に居たかったというのが本心。
まったく隠しきれていない私の本心に、壱さんは溜め息を吐いた。
そして、「好きにしろ」と小さく吐き捨てた……。
昼過ぎに降り出したこの雨は一晩中降り続き、その翌朝になっても止むことはなかった。
降り止まない雨音に目を覚ました私は、布団のなかで小さく溜め息を零した。
壱さんの家に泊まるようになってから、1人で目覚めることが怖いと思うことがある。
今がまさにそうだ。
すごく怖い……。
布団から顔を出して壁にかかった時計を見た。時刻は朝の7時過ぎ。
壱さんが私を叩き起こす時間は、もうとっくに過ぎていた……。
「……いち、さん」
声が上手く出せなかった。
寝起きで喉が渇いているせいだけじゃない。
怖かったからだ……。
身体を起こし、隣の布団に手を置いた。
「壱さん、起きて」
すこし強めに隣りの布団で眠る彼の身体を揺すった。
私の心臓は激しく脈打っていて、その音は全身を支配する。煩い雨音さえ耳には届かなくなってしまう程だった。
「壱さんっ…!!」
大きく息を吸い込んで、大声を上げた。心臓の音をかき消すように……。
……すると、
「…んっ」
ゆっくり起伏する布団と静かな吐息に、私はほっと息を吐く。
「…よかった。死んじゃったかと思った……」
「朝っぱらから縁起の悪ぃこと言ってんじゃねぇ」
「だって起きてないんだもん。ぽっくり逝っちゃったのかと……」
「うるせぇ。んなこと言ってねぇでさっさと学校行って来い」

