「ところでお前、盆には家に帰るのか…?」
「…え?」
壱さんの突然の言葉に、私は思わず間の抜けた声が漏れた。
脈絡もなくそんなことを訊ねられても困る。返事が返せず閉口する私に、壱さんは言葉を重ねた。
「盆くらい家に帰ってやれ」
その言葉に思わず笑ってしまった。
確かに世間一般からすれば、お盆に実家に帰省というのは普通のことだろう。
…しかし、私みたいな家出娘相手にそんなことを言うのだから滑稽だ。
「あのね、家出してるのにお盆とか関係ないから」
笑いを堪えながらそう返すと、壱さんは眉を寄せた。
「墓参りとかあるだろう」
「子供の時行ったきりだよ。面倒くさくてもう何年も行ってない」
「薄情な奴だな」
「壱さんがお墓に入ったら毎日お参りに行ってあげる」
「いらん」
くすくす笑う私に壱さんはそう冷たく言い放った。
「…そういう壱さんこそ、お墓参りとか行かないの…?」
「……行かねぇ」
「私に薄情だとか言いながら、自分も行かないんじゃん」
そう言い返すと、壱さんは不機嫌そうに言った。
「此所から遠いんだよ」
その言葉に、故郷の名前を尋ねてみれば、何処なのかも検討のつかない地名を言われた。
私の反応を見た壱さんは笑った。
「海しかねぇようなところだからな……」
"海しかない"
さっきの話でも、彼は漁師をしていたと言っていた。
「行きたい」
衝動的に私はそう口にしていた。
その突然の言葉に壱さんは眉を寄せた。
「壱さんの故郷の海…、行ってみたい。連れてって」
そう言葉を重ねると、壱さんは案の定首を振った。
それでもしつこく強請ると、
「わかった。いつかな」と適当な返事をされた。
いつかなんて日は、きっと来ないのだろうと思った……。

