……聴こえてくるのは、暑苦しい蝉の鳴き声と風鈴の音だけだった。
それはまるで、夏の世界に自分一人だけが置き去りにされたような、そんな不思議な感覚にさせる音色だった。
長いような短いような祈りの時間はいつの間にか終わり、ラジオからは平和を唄った音楽が流れ始めていた。
「大戦があったのは、俺が十五の時だ……」
壱さんはそう教えてくれた。
十五歳…当時の彼はまだ中学生くらい。
私は三年前の‥十五歳だった頃の自分を思い出してみた……。
「……私は十五の時に、処女喪失したよ」
「くだらねぇな」
「うん。私もそう思う」
喉を鳴らしてくくっと笑う壱さんに、私も笑って頷いた。
本当にくだらない出来事だ。
早く大人になりたくて一生懸命だったあの頃の自分は、本当にくだらない。馬鹿だった。
「…まぁ、この国が平和な証拠か」
そう呟いた壱さんは、私にはとても遠い存在だった。

