「……蚊取り線香ぐらいなら買ってやる」
手のひらを拭きながら壱さんが無愛想に言った。
その言葉に私は顔を上げる。
「ほんと!?」
「あぁ」
壱さんが私のために何か買ってくれるなんて、初めてだった。
「一緒に買いに行こ!」
「あぁ?金はやるから一人で行ってこい」
「やだやだ!壱さんに買ってもらいたいの!!」
出掛けるのを嫌がる壱さんの手を私は無理矢理引いた……。
駄々を捏ね続ける私に、やがて壱さんが諦めたように口を開いた。
「わかったから手ぇ離せ」
「一緒に行ってくれるの?」
「あぁ」
「やった!」
「……そのかわり、出掛けるのはもう少し陽が落ちてからだぞ」
「はーい」
壱さんの言葉に私は嬉々として返事をした。
…そして、夕方。
昼間の暑さより微かに涼しくなったころ、私と壱さんは出掛けた。
並んで外を歩く。
道は夕陽に照らされてオレンジ色に染まり、二人分の伸びた影を見て私は嬉しくなった……。
「あら、北大路さん、
お孫さんとお出掛けですか…」
そう言って声を掛けてきたのは、壱さんの家の近所のおばさんだった。
「えぇ」
そう返事をした壱さんは相変わらず無愛想だった。
しかしおばさんは嫌な顔もせず、にこりと人の良さそうな笑みを浮かべていた。
「まぁ、仲のよろしいこと…
もう暗いですから、お気をつけて……」
その言葉に会釈で返す壱さんに釣られ私も小さく頭を下げた。

