――9、10、11…
なんとなく数えてみた数が二桁になり、これまたなんとなく面倒くさくなって数えるのをやめた。
腕や足にはぽつぽつと赤く膨れた小さな痕。
壱さんの家に泊まったその翌朝、薄着をしていた私は体中が酷いことになっていたのだ。
数えきれないほど蚊に食われてしまい、全身痒くて仕方がない。
掻きむしってしまえば余計に酷くなるからなにもできない。そう考えると、ますます痒くなったような気がした。
「痒いー…」
「そんな下着みてぇな格好してるからだ」
自業自得だとでも言うように壱さんは冷たく言う。
「ねぇ壱さん、クーラーとか買う予定ないの?」
クーラーの一つでもあれば、私もこんな格好でいることはない。…もとより、クーラーで閉め切った部屋になれば蚊だって入る隙はないだろう。
「ねぇな。文句があるなら出てけ」
私の希望を打ち砕くように、壱さんは涼しげな表情できっぱりと言い放つ。
汗一つかいてない壱さんを見て、まるで彼だけ暑さを感じていないように思えた。
「壱さんは暑くないの?」
「たいした暑さじゃねぇだろ」
そう答えた壱さんの肌に触れてみた。驚くほどに冷たい温度だった。
「触るな。暑苦しい…」
そう言って私の手はすぐに振り払われた。
しかし私は構うことなく再び彼に触れた。今度は全身で……。
「きもちいー…」
「やめろって言ってんのがわからねぇのか」
着物越しからでも伝わる冷たい体温が、火照った身体には心地良い。相手が壱さんだから尚更。
やめろと口にする彼を無視し、ぎゅうっと抱き締めた。
とくんとくん、ゆっくり脈打つ心臓の音を感じた。
煙草の匂いにどうしようもなく安心する。
好き。
やっぱり私はこの人が好きだ……。
その感情が私の心を占領して、なにも考えられなくなる。

