「おい、こっちだ!」


その声に反応する拓馬。


声の方を見ると、右手にそびえ立つマンションの三階から、男がこちらに向かって手を振っている。


「とりあえず、ここに避難しろ!」


拓馬は慌ててマンションに入ると、三階へ駆け上がった。


良かった……ついに、目撃者が……とりあえず、助かった!


男の家へ上がる拓馬。男は四十代半ばの風貌で、痩せ型。


部屋を見る限り、どうやら子どもがいるらしい。3LDKのマンションに、子ども用のおもちゃが散らばっている。


「ありがとう、オジさん」


とりあえず、お礼を言う拓馬。


「ああ。それより……どうなってるんだ」


「いや、俺も、何がなんだか……」


「今、警察に連絡してやるからな。それと……その包丁、物騒だから、どうにかならんか」


「あ、すいません」


拓馬は包丁を台所に置くと、崩れるように座り込んだ。


急に見ず知らずの人の家に上がっておきながら勝手に座るのは礼儀が悪いかもしれないが、足がガクガクして言うことを聞かなかった。


たったこれだけで疲れていては、この先が思いやられる。


だが、警察さえ来れば、拓馬の出番はここまでだ。


あとは、警察がゲームのモンスターに勝てるかどうか。問題は、警察と連絡が取れるのか……。


おじさんの方をチラリと確認する拓馬。


おじさんは電話で、何か話している様子だ。どうやら、警察に繋がったらしい……良かった。


おじさんは電話を終えると、拓馬に言った。


「今、警察に連絡したから。安心しなさい」


「ありがとうございます」


「ま、お茶でも」


と、グラスにお茶を入れてくれた。