――貴方が居ないと生きていけないの。

この一言を口にさえ出来ていれば
何か変わったのだろうか。
ただ少し、虚勢を張っただけ。
…それだけだったのに、あの人は私を見つめるフリをして
その背後にある時計台の指針が動くのを
苛立たそうに凝視していた。

「……ゴメン、俺さ、時間ないんだけど…。」
「――こんな日に、彼女と過ごす以外に急ぎの用なんてあるの?」
「……。」

彼の言葉を遮るように、私は淡々と言い放った。
その後、ぎゅっと唇を噛み締め
思わず溢れそうになる涙を堪えながらも彼を見据えるが――、
彼の瞳には私の姿など映っていない。
舌打ちを繰り返し、荒々しい手つきで煙草に火をつければ
スーツの内ポケットに締まった携帯が気になるのか、
私をちら見しながら何度も、着歴やメールをチェックしていた。

『残業』と称して、今日12月24日
クリスマスイブのデートをドタキャンされた私は
付き合って3年目の彼氏に、詰め寄っていた。
……職場恋愛の利点、
それは意図も簡単に相手の仕事場での行動を把握できること。

「――私が、前もって有休を使って休みだったから
 …バレないとでも思った?
 ……嘘つくんだったら、もっと頭使いなさいよ。」
「――。」


予兆はあった。
私の知らない、イタリアンレストランの領収書。
毎日リセットされる携帯の着歴、発歴。
増えていくドタキャンの回数に、減っていくメールの数。
そして、止めは今日の嘘。

残業と称して私とのデートをキャンセルして
何処へ向かうつもりだったのか。
職場の友人に電話して確認をすれば
割と簡単に答えは出た。

『えーっとね…5時きっかり定時で誰よりも先に帰ったわよ?
 何か、彼女が待ってるとかで
 駅前のイタリアンレストラン予約したって
 嬉しそうに鼻の下伸ばしてたけど。』