ヒーロー先生

国立先生の試練を達成し最早僕は全くの無関係な人間になった。足早に教室を出て今日は誰に話しかけられても寄り道はせずに帰宅しようと心に決める。
下駄箱に手を掛けるが僕の名字を点呼する声。あれ、前にもこんなことがあったような。
だが僕を呼び止めたのは緑色のネクタイに始終白衣を着っぱなしの理科担当教師の千理先生だった。心配していた国立先生とは真逆どころか話している場面も見たことが無い無縁かと思われている先生。口数は面倒くさがりな数成先生よりも少なく生徒からもあまり話し掛けられない孤高な存在。だが油断は禁物、あの国立先生だ。何を仕出かすか分からない。

「阿藍、実験室で手伝いをして欲しいんだが」

ビーカーやフラスコの洗浄をしていたが人手が足りなく誰かを探していたらしい。僕は承諾したが「国立先生は居ませんよね?」と注意を払い居ないと分かった上で手伝いに行くことにした。帰宅しても時間は余るし千理先生と作業していれば話し掛け辛いだろう。国立先生のあの勢いだときっと僕を巻き込む気だ。
僅かに心配したが3階の理科室にはビーカーやフラスコや試験管が在るだけで国立先生は居なかった。今頃告竜さんは国立先生に問い詰められているかもしれない。もしかしたら数成先生が国立先生を止めているかもしれない。そう考えながら僕は千理先生の指示に従い大人しくビーカーを洗っていった。