ヒーロー先生

思っていたよりも早く、20分程で作業は終了した。千理先生は左腕に付けた腕時計に目をやり「ぴったりだ」と呟いた。何か予定でもあるのだろうか。助かったと礼を言われいえ、と互いに味気無く返事をする。多言無用、案外一緒に居て楽な人だと感じた。

理科室の鍵を閉め千理先生と僕は無言で足を進める。3階の階段を降りきったところで千理先生は口を開いた。

「もう少し付き合ってもらっても良いか」

千理先生とのコミュニケーションが極少故に頼まれ事を1日に2度もされるのは何だか新鮮だった。了解の返事をし千理先生の後をついて行く。
やがて扉を開けた教室は我がA組の教室だった。

「やぁ!」
「やぁじゃないです!」

思わず精一杯突っ込んだ。何故こうなった。僕が油断していたのか?
机は小学生の給食時間のときのように向かい合わせにされ快晴を背景に何時かと同じ、窓側から最前列から2番目の席に着席し元気良く挨拶する国立先生。僕から見てその左隣に足を組み眉間に皺を寄せている数成先生。それに国立先生の向かいに座っていたのは驚いたような表情をしている告竜さんだった。受験の面談でもしてるのかと突っ込みたくなるような図だ。
千理先生は国立先生の隣に立ち「助かった」と何故か礼を言う。「全ー然」と笑顔で受け答えする国立先生に僕は余程疑問の視線を送っていたのか、国立先生はネタ晴らしでもするかのように話した。

「人手が欲しいって千理が言ってたからさ、阿藍君を20分貸すから終わったら此処に連れてきてって頼んだんだよね」

まんまと嵌められた。いや嵌った。
反感の念も反論する気力も失せ小さく溜め息を吐いた。僕は仕掛けにかかった間抜けか。
僕は大人しく椅子を引っ張り数成先生と告竜さんとの丁度の向かい合わせにされた机の前中間に座った。

「で、何処まで話したんですか?」

開き直った僕に数成先生は小さく「ご愁傷様だな」、と呟いた。