亮佑

それが神崎の下の名前。




私だって下の名前を知らないわけじゃない。

ただ、名字で呼び合っていることが普通になりすぎて、下の名前で呼ぶタイミングを失ってしまったのだ。


それでも、まっ いっか。

…なんて最近まで思っていたけど、目の前でこんな風に親しげに神崎の名前を呼ぶ成瀬くんを見ていたら、そんな風には思えなくなっていた。



私としては仮にも付き合ってるわけだし、やっぱり下の名前で呼び合いたいと思う…



( …亮佑 )


私はもう何度こうして奴の名前を心の中で呼んだのだろうか……







「 ねぇ!神崎!!

私も亮佑って呼んで良い!?」


「 …は?」


突然の私の提案に、神崎はなに言い出すんだとでも言いたげに顔をしかめた。



「 あぁ!!良いじゃん良いじゃん!

彼氏と彼女なんだから名前で呼び合ったほうが断然いいよ!!」


成瀬くんが嬉しそうに頷いた。

あんた関係なくない?
とか思ってしまったけれど、ここは味方は1人でも多い方が良いので、思わなかったことにする。




「 ね!成瀬くんもそう言ってるし、良いよね!?」


「 いや、成瀬関係ないだろ 」



強引に押し切ろうとしたけど、神崎からは冷静なツッコミが入った。



「 名前で呼んじゃ駄目なの?」


「 ………。」



訊ねれば神崎は黙った。まるで本当に駄目な雰囲気だ。



「 どうして!?

僕が名前で呼んでも平気なのに、彼女の大塚さんは駄目っておかしいよ!!」


私の気持ちを代弁するかのように、成瀬くんが声を上げた。