ある日常の風景。

ここは町の中心部。

そこに、時代遅れの古びた交番が一つある。

ある上司は、その交番の裏の休憩室であぐらをかいていた。

あくびをしながら、新人警察官達に言い放つ。

お前ら、俺の肩を揉め。

次は、足じゃ。

その男は、彼らが入れたコ−ヒ−を片手にクロスワ−ドパズルをしていた。

男に仕事をする様子はない。

封建的な考えが根強い警察組織でこのような光景は珍しくない。

年長者は、周りから常にもてはやされ、何もせずとも周囲に絶対的な権力を奮う。

それがどんなに間違っていようとも。

「勤務年数、階級」の肩書きがものをいう世界。

それにたてつく者は、静かに組織から廃除される。

幹部から精神的に追い詰められ、自主退職を迫られるのだ。

それは、一般人には「おかしい」と言える事だが、組織の歯車として動く警察職員にはそれを「はい」と言う事しかできない。

幹部に辞めさせられた多くの仲間達を見ているから。

そして、漬け物がぬかに漬かるように、初めはその在り方に疑問を抱いていた新人達もそれを正しいと思うようになる。



新人達は、男の申し出に全て頷き、愛想をふりまいていた。

そんな中、一人の若手警察官が男の前に出る。

彼は男に反論する。

「市民の安全を守るのが僕達の役目。時間があれば、それを考えて仕事をするのが、筋じゃないんですか。」

男は激怒し、灰皿を彼の額に投げつけた。

「下の奴は上司の言うことを聞いておけばいいんだ。」

男が投げた灰皿は彼の眉間に当たり、そこから血が流れる。

彼は男の目を見る。

その目は真っすぐに男を見つめていた。

「あんたが仕事をしないのは勝手だ。でも、そうでない人達のやる気を削ぐのは止めろ。」

彼は反転し、町に出る。

怒りを必死に噛み殺して。

町をパトロールをする彼。

その後ろには、多くの新人警察官がついて来ていた。

「行くぞ。」

彼の背を見て歩く新人達

富塚はもう一人ではなかった。