俺は全力で右ストレートを伸ばす。

彼女を守る事だけを考え。

バン。

店内に銃声が響く。

火薬の臭い…。

弾は俺の頬をかすめていた。

対照的に俺の右拳は男の顔にめり込んでいる。

男はそのまま俺の拳から滑り落ち、地面に倒れる。
俺は自分の右拳を見つめる。

確かに俺の拳は、届かないはずだった。

でもこの拳は、男が引き金を引くよりも速く動いてくれた。

俺は彼女に目線を移す。

彼女は、口を押さえ震えていた。

良かった。守れたんだ。

俺は思う。

俺の最後の拳は頭で考えたのではなく、体が咄嗟に出したもの。

彼女を守るためだけに。

俺は笑顔を浮かべる。

一つだけ言える事は今の拳は、俺にとって人生で最強で最速だった。

俺は右拳に語りかける。

お前も満足だよな。

俺はゆっくり地面に膝をつく。

もう眠っていいよな…。

自らの死が迫る中、胸に去来するのは、誰かを守れた事への安堵感。

その気持ちは俺に死の恐怖を忘れさせてくれる。

薄れゆく意識の中、パトカーのサイレンが聞こえる。

俺はその場で意識を失った。