俺が死んだらこの人が悲しむ。

徹の母のように。

眠る母の背に俺は「ありがとう」と一言呟く。

俺は階段を一段一段ゆっくり降りていく。

辛いはずの体はなぜか少し軽かった。

俺は一人じゃない。

みんなに支えられている。

この命は、俺一人のものではない。

1階についた俺は台所に入る。

俺は包丁がある水屋の扉を開ける。

目の前には包丁が数本並んでいた。

俺はその光景を鼻で笑う。

バカな…。

この包丁は母が俺のために料理を作るもの。

俺は水屋の扉を閉め、その上にある流しの蛇口を勢いよくひねった。

勢いよく冷たい水が出る。

俺は、その水を頭からかぶる。

その冷たさは、俺の意識をはっきりさせる。

俺は顔を上げる。

まだ何も始まってないし、何も終わっていない。

俺は玄関から外に出る。

空には無限に星が広がる。

「綺麗だな。」

この星を美里と見たかった。

よく考えれば、俺達は空を見上げるゆとりすらなかったんだな。

暗闇の道を俺はゆっくり歩いていく。

その暗闇は部屋にいた時のものとは違う。

俺は自分自身の大きな何かを変えようとしていた。



道中、俺は少し目眩を感じた。

台所で水を飲んだとはいえ、まだ体は本調子ではない。

水…。

俺は近くのコンビニに入り、少し休憩する事にした。

コンビニに入ると俺はポケットに手を入れる。

そこには10円玉が4枚。

仕方ない。

俺はトイレに入り、水道の水を少し飲んだ。

ふぅ。

俺はトイレの便器に座りしばらく休憩する。

ここでしばらく体調の回復を待つ。

でも体調が回復したら、俺はどこに向かえば良いのだろう。

向かうべき場所。

俺の目標。

俺はどこに。

「キャー。」

店内から女性店員の叫ぶ声。

俺は扉の窓から店内を見る。

そこには、ナイフを持つ男の姿があった。