俺が彼女の家に住み、もう三週間が経つ。

俺の怪我はすっかり完治し、彼女には笑顔が増えた。

彼女と俺はス−パ−でバイトを始め、仕事中もプライベートもいつも一緒だった。

二人の会話は以前より多くなる。

でも二人は徹の話をしなくなった。

俺も彼女もお互いを異性として見ていたから。

徹の話をすれば、彼女は母に、俺は親友になってしまう。

俺達にはそれが怖かった。

二人で徹の位牌にお経をあげるとき、俺達は徹への罪悪感でいっぱいだった。

俺達はお互いを好きになってしまったのだから。

徹が見ていたら、きっと怒るだろう。

徹の位牌と向き合う時間。

その一番大切な時間が俺達にとっては少し苦痛だった。

俺達は、まだお互いの気持ちを伝えていない。

しかし、伝える日は近いだろう。



今日は徹を死なせた相手の裁判の日。

徹は交通事故に遭って死んだ。

原因は100パーセント、トラックの運転手にある。

運転手は仕事の疲れから居眠りをし、徹のいる歩道に突っ込んだ。

徹の命を奪っていった相手。

俺と彼女は傍聴席で裁判の開始を待つ。

彼女は真っすぐに法廷を見すえていた。

その瞳は息子を亡くした母のもの。

俺の入り込む隙間など微塵も無かった。

相手への憎しみも強いだろう。

俺は…。

俺の意見としては、相手に対しての憎しみはない。

相手も不注意でそうなった事。

故意ではない。

それに俺もその不注意をこの先の人生でしないとも言い切れない。

相手の立場も俺にはわかる気がした。

でも感情とか何より、俺は徹の命を奪った相手の今の想いが聞きたかった。

徹の命の重さを相手にわかっていてほしかった。

しばらくすると、扉が開き検察官に連れられ、五十代の男性が法廷に入って来る。

俺の手に力が入る。

俺は被告人をしっかり見る。

彼の髪はボサボサ、目の下にクマ、顔色も良くない。
第一印象は、本当にどこにでもいる普通の人だった。

ふいに大きな声がした。