楽描屋ーラクガキヤー

 窓に向かって小石が飛んでくる──それは、少し考えにくい事だ。
 昔住んでいたボロ家ならともかく、庭の広いこの館の窓に向かって小石を投げつけるには、厳重な警備体制が敷かれている敷地内に侵入するしか方法が無いからである。
 ここは曲がりなりにも宝石王・ユージンの自宅。
 エイダは最初、賊が館に保管されている宝石の数々を狙って侵入しようとしているのかと思ったが、しかし窓を叩く音は何度か聞こえていた事を考えると、賊の可能性はあまり高いとは言えない。
 賊ならば、わざわざ館の住人に悟られるような物音を立てたりはしないだろう。
 そこでエイダは、一つの可能性に思い当たった。
 庭に侵入している何者かは、わざとエイダに分かるよう音を立てているのではないか。
 彼女は、居眠りをする前に何かを待ってはいなかっただろうか。
 恐る恐る窓の下を見下ろせば──いや、暗くてはっきりとは見えないのだが──そこからは聞き覚えのある声がボソボソと聞こえてくるのだった。
「当たらなかったんだから、べつにおこることもないじゃないか」
「当たってたら大変なことになってたです! もっと後先考えてですね──!」
「でも、ほかにどうすればよかったか、思いつかなかったし」
「夕方に使ってた通信機があるじゃないですか? あれでまた話し掛けてみるとか」
「…………」
「…………」
「おお!」
「おお! じゃないですっ!」
 声の主は、忘れもしない昼間の二人組。
 楽描屋と詩人であった。