今回の作戦には過去最大級の人員と物資が投入されており、これが失敗すれば、勢いに乗った敵軍は一気にこちらの首都まで攻め込んで来るだろう。
 国境の近くに位置する私の故郷は、真っ先に占拠され、敵国の拠点と化してしまうに違いない。
 そうなれば、特に疎開先も無い私の家族は無事では済むまい。
 上官には決して言えない事ではあるが、正直な話、私は国同士の紛争にはあまり興味が無い。
 しかし、国境での戦いの敗北が家族の命運に関わる以上、どんなに危険であっても私は前線で戦わなくてはいけない。
 絶対に、負けられない戦いなのである。
 そんな私の説明に対し、二人は複雑な顔をしたものだ。
 けれども、どれだけ説得されようとも、私は決して屈する訳にはいかない。
 戦いをやめてしまったら、大切な家族を失ってしまうかもしれないのだから。
 家族を失う事。
 私はそれが恐ろしく、しかもそれが十分に起こり得る事が、戦場に帰らなくてはいけない理由なのだ。
 家族を守る為ならば、私は何人だって敵を手にかけられた。


 貴方が育てた その闇は
 貴方を愛した 人たちの
 温もりさえも 奪い去る

 貴方が願う その想い
 貴方を想う その願い
 それらはきっと 同じはず

 どうか無事で いてほしいと──

 貴方のその手に 温もりを
 愛する人たちを もう一度


 不意に、手当をしてくれた方の少女が、歌うように言葉を紡いだ。
 それは詩(ウタ)。
 音階は無く、しかしリズムの良い詩。
 戦争を続けようとする私を、遠回しに非難する詩。
 家族も私の身を案じているは同じなのだ、と言われた気がした。
 なのに、その詩は私に向けられた物ではなかった。
 詩を詠んだ少女の視線はもう一人の少女へ向けられており、視線を受けた彼女はただ頷くばかり。
 その後二人はそれ以上私を非難するでもなく、戦場に戻る私の背を黙って見送ってくれた。
 いや、終始何もしなかった方の少女は見送りすらせず、一人で岩場で遊んでいたようだった。