「…お母、さん………」
私はもう1度そう呟きながら、お母さんに歩み寄る。
その声が、少しだけ震えていたことに私自身が戸惑ってしまう。
私は震える声を振り絞りながら、お母さんを見詰めた。
「…また…、…行くの………?」
「しょうがないでしょ。仕事よ仕事」
「…ッそんなの…!」
嘘だって知ってるよ。

そう言いかけて口を閉ざす。…言ったところで、どうにかなる訳じゃないんだし…。
私は拳を握り締めながら言った。

「…次はいつ帰って来るの?」
「んー…長かったら2週間ぐらい帰って来ないかも」
「……そう」
私は目を伏せながら下唇を噛む。お母さんは笑いながら私の頬を撫でながら、猫撫で声で言った。

「鈴嘉は偉い子だもんね?お金置いとけば、1人で何でも出来るよね?」

穏やかなのに有無を言わせない口調。私は震えながら、小さく頷いた。
お母さんは私の頭を撫でると、無造作に机の上に一万円札を何枚か置いて家を出て行った。


…3日ぶりに会った母と交わした言葉は、たったそれだけだった。