高岡が就職してから
初めて持った携帯電話は

この頃には機種も古く、
液晶も壊れかけ

ボタンの数字もかすれていたが

結花の実家の電話番号と

今は使われているのか
不確かな

結花の携帯電話番号が
無意識に記録されていた。

わざわざ消す必要もない。
そう思っていたのだ。



産まれたばかりの長女に
産婦人科で挨拶をした直後。


数日、
父子家庭を引き受け
帰宅しようとした帰りの車中。

高岡の携帯電話は
懐かしい着信音を
奏でた。


「…結花…?」


高岡は運転しながら
携帯をとる。

結花の為に
遥か昔に設定した着信音だった。

車を脇に止める。

後部座席には
息子二人が
すやすや眠っている。

意を決し電話にでる。


「…はい。高岡です…もしもし?」


しばらく沈黙が流れる。

結花に間違いない。

高岡は確信した。