高校生の頃、
高岡は初恋をした。

あまり派手な町に生まれたわけではないし、
この町から出ていこうなどとは、
一度たりとも
考えたことすらなかったが、

高岡の通う高校は
ほんの少し
町からはみ出た所にあったので少しだけ大人になった様な気がしたものだ。

「おはよう!!」

ホームで電車を待っていると学生かばんでいきおいよく背中をはたかれる。

毎朝、元気よく声を掛けてくれる同級生の結花(ゆか)だ。

「おはよう。お前はいつも元気だな。」

高校に通いだしてまだ数か月。
夏の間近なその朝は
高岡の通う高校の
高岡を含めた出来損ないのための講習が
始業前にあるので

高岡はいつもより一本早い電車を待っていた。

結花が毎日この電車に乗るのを高岡は知っていた。

昨夜のバイト帰り、
同じ中学出身の結花を
いつもの様に外へ呼び出し
いつもの様に他愛もない
話をしたあと、
自分から告白したばかりだったから
少し照れ臭い。


「結花。今日バイト?なかったら、うち来ない?」


高岡の育った環境は
母一人、子一人の母子家庭。

母親は看護士をしていて
夜勤で家を空ける日が
三日に一度あった。
父親は生存していたが
別居していて
時々様子を見に来る様に

自作のおでんを
鍋ごと差し入れてくれる日があった。

母は何も話さないし
高岡は子供心に
聞いてはいけない
大人の理由なるものが
あると察していた。


「今日バイトないよ。じゃあ家に帰ったら電話するね。」

バイバイ、と手を振って
別の電車に乗り換えるための三つ目の駅で
結花は電車を降りた。

高岡はもう一つ目の
各駅停車の駅で降りる。

その日の朝講習は
高岡が生まれて初めて
先生に誉められた日となった。