「初めまして。松浦と申します」

「ああ?」

男が僕の前で足を止めて、『なんだ、こいつ?』という顔になった

身長は僕のほうが頭一つ分、大きいようだ

男は僕を見上げて、少し驚いた表情をしていた

昔から無駄にデカいって言われ続けてて、嫌だったけど、誰かと喧嘩するときとは言い合いをするときは身長が高いって有利だよね

こういうときは相手のペースに巻き込まれちゃいけないんだ

テニスの試合と同じさ

決して相手に呑まれず、自分のペースを守る

「もしかして、葉月さんのお父様ですか?」

僕はにっこりとほほ笑んだ

「あ? モンスターペアレンツとでも前任者から聞いてるか?」

前の担任に会ったことすらないのに、どうやって聞くのさ

「いえ、教育熱心で学校行事にとてもご協力的なご両親だと聞いています」

僕は椅子を机の中にしまってから、改めて頭をさげた

「ご連絡が遅くなって申し訳ありませんでした。今朝、出勤した際に他の教師から、葉月さんのお父様から何度もお電話があったのは聞いていました。が、何分、新人でわからないことだらけでして、ご連絡が遅くなってしまいました」

「これだから…新人はっ」

葉月さんの父親が、喉を鳴らしながら、ネクタイを直し始めた

「本当に、申し訳ありませんでした。今後はこういったことがないように気をつけます」

教師の仕事は、子どもよりも親との対応が面倒だって聞いたけど…いきなりそれを味わうなんてな

「ふんっ」

葉月さんのお父さんが不満そうに鼻を鳴らすと、そのまま職員室を出て行った

職員室のドアが静かに閉まると、どこからともなく教師たちのため息が聞こえてきた

え? なに?

僕は周りにいる教師たちに目をやった

女性の教員たちが、ほっと肩を撫でおろしている

飯野主任は、中腰のまま固めていた身体をほぐしながら、椅子に座った

「100点満点な応対ね。すごいわ」

「はあ、ありがとうございます」

僕はぺこっと頭をさげると、椅子に腰を下ろした

ペットボトルのキャップを手の中に入れると、ボトルの口を閉じた