わたしの、センセ

「…で、さっさと本題に入れ。んで、さっさと帰れ」

「冷たいなあ。桃香ちゃんと過ごす時間が短くなるからって…」

「わかってるなら、さっさと言え」

「はいはい」

僕は、勇人さんがすすめてくれた回転椅子に腰かけると、ベッドに座った勇人さんの顔を見た

「『葉月さくら』って子の婚約を壊したいんだ」

「あ?」

勇人さんの眉間に皺が寄った

「『葉月』かあ。うちの会社でも取引があったな」

勇人さんが腕を組んで、視線を上にする

何かを考えているみたいだ

「さくらのお父さんに、三日以内にお父さんが婚約破棄をしたくなるようにさせるって言っちゃんだよね。思わず、頭に血がのぼって」

「ああ? お前はさあ…普段、ぽけーっとしてるのに。プチっと切れると面倒なんだよ」

勇人さんが呆れたように口にした

まあ…後先考えずに発言しちゃって悪いとは思ってるけど…『面倒』ってことはないでしょ

「さくらって子が、お前の恋人か?」

勇人さんの視線が僕の目にいく

僕はコクンと頷くと、笑顔になった

「生徒でもあるけどね」

「はああ?」

勇人さんが、『バカか、お前は』と言わんばかりの顔で、僕を見た

「好きになっちゃったから」

「さくらって子に押し倒されでもしたか?」

「え?」

「違うならいいけど」

まあ…いきなり告白されて、キスされたけど

まいったなあ

勇人さんは何でもお見通しだから、怖い

信頼できる相手だけど、嘘はつけないんだ

「婚約者の名前は?」

「道隆って言ってるのを耳にしたけど」

「ふうん…じゃ、戸倉道隆かな? なら手は打てる。俺に任せておけ。明日には、婚約破棄になる」

勇人さんがにやっと楽しそうに笑みを見せた