わたしの、センセ

「ふん…相変わらずのお人好しがっ」

勇人さんが僕の背中を叩いた

僕は笑いながら、こめかみを指で掻く

「真央とは付き合いが長いから。そう簡単には切り捨てられないっていうか…」

「付き合いの長短は関係ねえだろ。俺は裏切られれば切り捨てる」

「桃香ちゃんだったら?」

「ああ?」

勇人さんの眉がぐいっと上に持ち上がった

「桃香ちゃんがもし裏切ってるのを知ったら?」

「桃香は裏切らねえよ」

勇人さんが僕の頬を力の限り抓った

「いたたたっ。だから『もしも』の話だってば! 別居中なんでしょ? 寂しくてつい…ってことはあるかもしれない」

勇人さんの目がちらっと桃香ちゃんにいく

桃香ちゃんは驚いて、首を左右に振った

「あたし…は、大丈夫、です」

若干怯えたような目で、桃香ちゃんが慌てて口を開く

「…だそうだ。寝室が別々だからって、毎日シてないわけじゃないからな」

「うわ…生々しい発言っ」

僕の突っ込みに、勇人さんの張り手が飛んできた

「あ…アップルパイを焼いたんですけど、食べますか?」

桃香ちゃんが空気を変えるために、明るい声で聞いてきた

「たべ…」

「こいつにはやらなくていい。俺が食う」

勇人さんがむすっと顔で、僕の耳を引っ張った

「いたたっ」

「話しは俺の寝室で聞く」

僕は、居間に足を踏み入れさせてもらえずに、勇人さんの部屋に引き摺りこまれた