わたしの、センセ

「…で、いつになったら、葉月さんと話をさせてもらえるのでしょうか? まだ彼女の相談の途中なんですけど」

僕の言葉に、さくらのお父さんの頬が怒りでピクっと動く

「さくら、帰るぞ。こんなヤツに話す必要はない」

さくらのお父さんが、さくらの手首を掴むと無理やり立たせた

「や……ちょ…」

さくらがお父さんに抵抗しようと、机を掴もうとするが、手が伸びる前に、お父さんに強く引っ張られた

「道隆君が待ってる」

お父さんの言葉に、さくらの顔色が変わった

首を左右に振って、「いやだ」と叫んだ

さくらにしては、珍しい拒否の姿勢だ

ズルズルと引き摺られながら、さくらはお父さんと一緒に帰って行った

僕は追いかけたくなる気持ちを抑えて、生徒指導室にとどまった

教師ではなく、一人の男としてなら、さくらを追いかけていた

お父さんの腕を掴んで、一発殴るくらいはしたい

だけど、僕は教師でもある

悲しいけど、僕には追いかけて、さくらを止めるまでの力はない

教師として、さくらが婚約者を嫌がっているという話は、あのお父さんに言えるけど

実力行使で、阻止できるほどの権力は僕は持ってない

ごめん…さくら

守りたいのに…僕の手には権力がないよ

君のお父さんほどの権力と実力があれば、きっとさくらの婚約者をねじ伏せられるんだろうけど

ごめん