わたしの、センセ

「知っていますか? 『高校ごとき』の勉強を教えるために、全国の教師の3人に1人がうつになってるんですよ。勉強を教えるだけじゃない教師の仕事って、意外と大変なんですよ。貴方みたいな大人が多すぎて、教師たちはほとほと困ってる」

「君は一生、うつとは無縁そうだな」

「ええ。僕は無縁でしょうね。ため込むのは嫌いですから。『高校ごとき』勉強のために己の心を壊したくありませんね」

センセとパパが睨みあう

「話しはそれだけなら、部屋を出て行ってもらえないですか? 今、僕は葉月さんと話をしているんです」

「同席しよう」

「困ります。親がいることで話せないこともあるので」

「何だと」

「彼女の苦しみは、こうやって答案用紙に顕著にあらわれているんです。今、大人が話を聞いて救ってあげるべきでしょ? 違いますか?」

「…くっ」

パパが悔しそうな顔をすると、唇をかみしめた

「普通、子供たちの悩みというのは、親の知らないところで発生して、知らずに解決するもんなんですよ。もちろん教師の見えないところで、ね。それは子供たちが社会できちんと生きている証拠でもある」

センセがテーブルに並んでいる答案用紙を集めると、クリアファイルにしまった

「子供が大人に助けを求めるということは、その子にとって緊急事態であると悟るべきだ。子供が、子供同士で悩みを打ち明け、相談し、迷いながら答えを見つけていく…ときには間違った道を正解だと思ってしまい、痛い目を見て、また学ぶ。それが10代で学ぶべき最大の勉強だ。学校の勉強なんて、ただの付属品。その仕組みを乱し、崩しているのが……僕たち大人だよ」

センセが、パパの顔をまっすぐに見つめた

センセ……すごい

今年1年目の教師とは思えなくらい、はっきりと意見が言えて、堂々としてる

センセって、格好良いなあ