「ごめんなさい…すみません」

葉月さんが僕から離れると、また教室の隅で小さくなって身体を丸めた

僕は上着を脱ぐと、葉月さんの肩にかけた

「ごめんなさい」

葉月さんが、小さく呟くと石のように堅くなった

「葉月さん」

僕の問いかけに、葉月さんがぶるっと肩を震わせた

いつもの彼女に戻ってしまったみたいだ

「話しにくいなら、メールして」

葉月さんが首を左右に勢いよく振った

目の端にあった涙が、飛んでいくのがわかった

僕は葉月さんの隣に座ると、壁に寄りかかった

このまま葉月さんを置いて帰れないよ

家に帰りたくない葉月さんをどうしてあげるのがいいのだろうか

きっと飯野主任やご両親は探し回っているだろうし…

「じゃあ、質問」

僕は明るい声で口を開いた

「葉月さんは婚約者が嫌い?」

葉月さんが大きく一回頷いた

「結婚は避けられない?」

今度は泣きそうな顔で、小さく頷いた

葉月さんが、鼻を啜る

大きな涙が、ぽろっと頬を伝っていく

僕の手が自然と、葉月さんの冷たい手を握りしめていた

葉月さんが瞼を見開いて、僕の顔を見てきた

「今日だけね。特別だよ」

葉月さんが、寂しそうな顔をしてまた下を向いた