わたしの、センセ

先生…彼女いたんだ

わたしはがっくりと肩を落とした

「出して」

「はい」と運転手が言うと、車が静かに動き出す

そうだよね

先生くらい格好良くて、優しい人なら恋人…いるよね

いないはずがないもんね

わたしはなんか先生に裏切られたような気分になった

先生は裏切ってない

だって、先生はわたしを生徒として接してただけだもの

わたしが勝手に、先生を好きになって、先生に想いを寄せてただけ

メールだって、会話が苦手なわたしに合わせてくれただけで…特別な想いなんてないんだよね

先生のアドレスを知っているのは、わたしだけで、一人で浮かれて嬉しくなってた

あの学校で、先生のアドレスを知っているのはわたしだけだって…なんか特別視されているような気になってた

でも違うんだよね

先生は、ただ生徒としてわたしを見ていただけ

先生には、あんな綺麗な恋人がいるんだもの

あたしはただの生徒

手の中にある白い携帯を、後部座席の上に置くと、窓にコツンと額をぶつけた

…失恋しちゃった

告白もしてないのに

先生に恋人がいるんだもん、勝ち目なんてないよね

最初から、勝負になってないしね

あんなに楽しそうに笑ってる先生、初めて見たよ

学校じゃあ、あんな風に笑わない

微笑むことはあっても、心から楽しそうには笑ってないよね

おかしいなあ

失恋したのに、心が痛いのに…松浦先生への気持ちが消えないよ