わたしの、センセ

さくら、今日は早く帰れそうだよ

僕は、デスクの上に置いてある赤い携帯に手を伸ばした

「ふん、意外と早かったな」

デスクトップにちらっと目をやった勇人さんが、口を緩めると笑った

勝ち誇った笑みを浮かべている

「勇人さん?」

「葉月の会社が倒産した。多額の負債を抱えているらしい。どうするんだろうなあ。あの夫婦は…この先…」

勇人さんが少しだけ寂しい目をしてから、すぐに勝気な目で隠した

一瞬だけ見せた相手への思いやりが、僕の心を刺激する

勇人さんは優しい人だ

相手を追い詰めておきながら、その罪の重さに心を痛めている

この人は、これから先もずっとたくさんの罪を背負って生きていくのだろう

「勇人さんのせいじゃないですよ」

僕の言葉に、勇人さんが鼻を鳴らして笑った

「うるせえよ。んなことは、わかってんだよ」

僕も笑うと、さくらに早く帰れるとメールを送った

「お前たちは結婚しないのか?」

「しますよ。いつか…は」

僕は携帯から目を離すと、勇人さんを見つめた

「入籍は?」

「まだです。さくらはまだ未成年ですから。籍は無理ですよ。親のサインがないと…ね」

「成人するのを待つ…のか」

「ええ」

勇人さんが書類に目を落とした

「ま、さくらに捨てられないようにしろよ」

「勇人さんも、桃香さんに捨てられないようにしてくださいね」

「うるせえなあ」

勇人さんがいきなり不機嫌な声になると、むすっとした表情になった