わたしの、センセ

戸倉道隆…お前はサイテー野郎だよ

可愛い花欲しさに、他の綺麗な花を汚したんだ

その薄汚い欲望によって、傷付けられた人間の苦しみを牢屋でじっくりと味わって来い

お前が築き上げた会社は俺が全て買収して、解体してやるよ

心配するな

俺が全部、壊してやる

「相変わらず手厳しいな」

戸倉が連れて行かれる背中を見送っていると、藤城さんが俺の肩に手を置いてにっこり笑ってきた

「厳しい? どこがですか。証拠を手元で温めすぎた」

俺は自分の掌を見つめた

もっと早く松浦が泣きつく思ったのに、あいつは全然俺に頼ろうとしないし…

さくらって子も、家を飛び出すんじゃないかって期待してたのに、大人しくしてるし

いつでも戸倉をあげられる罪状を手元に置き、証拠も用意して待ってたのに、な

結局、結婚式の当日になっちまった

…わからなくもないが、な

己が我慢することが、最善の方法だと思ってしまう…その心理は、よくわかる

痛いくらい伝わっている

俺だって経験済みだ

数少ない俺の消極的な行動の経験だが…心の辛さ、苦しさ、行き場のなさ

「ま、時間があったぶん…戸倉の罪状がわんさか増えたから、まあ、いいけど」

俺は藤城さんが手に持っている分厚くなっている茶封筒に視線を落とした

「就職して、大人しくなったと思ってたけど」

藤城さんが、茶封筒の中身をちらっと見ながら口を開いた

「俺、もともと大人しいでしょ。派手なことは好きじゃないし」

藤城さんが鼻を鳴らすと、俺のわき腹に肘を入れた

「他人の結婚式を見事に潰しておいて、派手好きじゃないって…有り得ないでしょ」

「この結婚は成立しないほうが、世のためだ」

俺は藤城さんの背中をポンと叩くと、軽く手をあげた

『後は頼みますよ』と心の中で、呟いた俺は、出口に向かって歩き始めた

さあ、帰ろう

せっかく有給を取って仕事を休んだんだ

残りの時間は、桃香と過ごそう