わたしの、センセ

「悪いが、今後一切、松浦とあんたの娘に手だしはさせない。あんたの目の触れないところで、二人は幸せになる。あんたは…せいぜいに父親からもらった会社を破産させないように必死にもがき苦しむがいい。俺は、俺を裏切った人間に容赦はしねえ。何があろうとも、あんたが何をしようとも俺は、あんたを…苦しめる。覚えておけ」

俺はニヤッと笑ってから、契約破棄の書類を謙蔵の頭の上に投げつけた

「戸倉君と手を組めば…小山内なんか敵じゃない。苦しむのはお前のほうだ。せいぜい、偉ぶってろ! くそ餓鬼が」

俺が控室を出ようとすると、謙蔵が汚い言葉を吐き捨てた

聞き捨てならないなあ…『くそ餓鬼』ってもしかして俺のこと?

俺はぴたっと足を止めると、謙蔵に振り返った

「あんたが戸倉と手を組むことはあり得ない。戸倉の手は、もう錠に繋がれて、あんたが入る余地はないだろうからな」

「は? 負け惜しみか?」

「負け惜しみをほざいてるのはあんただろ。戸倉は警察に捕まるって言ってんだよ。婚約者を脅し、女を強姦した。この罪はしっかりと償って貰わないとな。鉄格子の中で…」

俺はにっこりと笑うと、「残念だったな」と謙蔵に呟いてから控室を出た

白い廊下から、見なれた警察の男たちが戸倉の腕を引っ張ってくるのが見えた

ウエディングドレスに似合う白いタキシードを着た戸倉が、暗い表情で近づいてくる

俺は最上級の笑みを戸倉に送った

「小山内 勇人」

唾を吐き捨てるように、どす黒い感情を吐き出しながら、戸倉が俺の名を呼んだ

「初めてじゃないか? 戸倉が人に喜ばれる行為をしたのは…」

「はあ?」

戸倉が俺を睨みあげた

「警察に捕まって良かったな。大勢の人から、感謝されるぞ。お前の罪が世に暴かれるってな。今まで憎まれることはあっても、喜ばれなかったもんな」

俺の言葉に、戸倉が悔しそうに舌打ちをした