わたしの、センセ

さくらの乗った高級車は、静かに発進するとすぐに路地を曲がって見えなくなった

僕はスーツのポケットの中にある真新しい赤い携帯を取り出すと、意味もなく、開閉を繰り返した

三回ほど開閉したあとに、また僕はポケットの中に入れる

さくら…メールくれよ

二人だけの秘密の携帯だよ

誰にも知られてない僕らだけの携帯なんだ

僕はもう一つの携帯を反対のポケットから出すと、勇人さんのアドレスを引き出した

「頼りっぱなしは良く…ないか」

僕は待ち受け画面に戻すと、携帯を握ったまま、階段をあがった

真央の強姦は、さくらの婚約者の仕業だった

さくらが道隆ってヤツのとこに戻るための手段の一つ

これで、さくらが僕と別れて、あいつのところに行ったら、あいつの思うツボじゃないか

さくらはそれでいいの?

好きでもないヤツの言いなりにある人生になるんだよ?

僕はそんなの嫌だよ

僕は、部屋のドアを開けると、靴を脱いで家にあがった

服を着た真央が、心配そうな目で僕を見つめていた

「悠真?」

僕は真央に苦笑すると、肩を竦めた

「悠真……生徒と?」

真央が恐る恐る声にして僕に質問してきた

僕は頷くと、テーブルの横に腰を下ろした