わたしの、センセ

「さくら」

階段に座り込んでいる制服姿のさくらに、僕は声をかけた

さくらの肩がびくっと跳ねた

「車を待ってるの。運転手が来なくて。もうすぐ来ると思うんだけど」

僕はさくらの後ろから、肩を抱きしめた

「泣いてる?」

「…泣いて、ない」

「僕は別れないよ」

さくらの熱い手が僕の手を掴んだ

「さっきの人と同棲してるって聞いたよ」

「誰に?」

「道隆さんに」

「僕の言葉と、道隆って人の言葉…どっちを信じる?」

「え?」

「真央とは確かに同居はしてた。でも同棲じゃない。家を飛び出して、行く当てのない真央に、寝泊まりするスペースを貸してただけ。土曜日に真央は出て行った。だけど、さっき戻ってきた。詳しくは知らないけど、強姦されたらしい。それで…戻ってくるように僕が言ったんだ」

「センセの言葉、信じる。だけど、わたし…センセと別れる」

さくらの言葉に僕は、胸の奥が苦しくなった

「ど、して?」

「センセに嫌われたくない」

「嫌うわけ……」

「ううん。嫌いになるよ。だって、真央さんの強姦はわたしのせいだから。わたしが道隆さんと一緒にならないから…だから…」

「しきりに謝ってたのは、そのせい?」

「うん」

「そっか。でも嫌わない」

黒塗りの車が静かに、アパートの前に停まる

「センセ、さよなら」

さくらが立ち上がると、僕に振り向かずに走り出した

「さくらっ、約束の携帯…さくら宛てに送ったから」

僕は、車に乗り込むさくらの背中に言葉を投げた

終わりにするなんて言うなよ、さくら