わたしの、センセ

わたしは視線を下に落とした

玄関には女物のヒールがあった

鈍器で、頭を殴られたようなそんな衝撃がわたしに走った

頭が痛い

目の前がクラクラする

「うそ…だって言って、センセ」

「さくら? どうしたの?」

センセが、わたしの肩に手を置いた

わたしはセンセの手を払うと、「ごめんなさいっ」と謝ってから、センセの部屋の中に勝手に入った

「ちょっと、さくらっ!」

センセが呼びとめるのも聞かずに、靴を脱ぎ捨てて、室内に足を踏み入れる

ベッドには、女性が横になっていた

顔が腫れてるけど…誰だかわかるよ

センセと駅でキスをしていた……センセの恋人

女性がばっと布団で身体を隠すのをわたしは見逃さなかった

ベッドの下には、脱ぎててある女性の服が散らばってる

嘘じゃなかった

道隆さんの言ってた通りだった

道隆さんのほうが合ってた

わたしはキッチンに目をやった

二つ並んだマグカップに、歯ブラシが仲良く二本ささっている

わたしの知らない空間

わたしの知らないセンセ

わたしの知らない……

「ごめんなさい」

わたしは小さい声で謝ると、女性に背を向けた