僕は廊下を歩き、明日から自分のクラスの生徒でいっぱいになるであろう教室に足を踏み入れた

これからは教師という立場で、教室に入るのかと考えると、心の奥がくすぐったい

4年前までは、僕だって制服を着て、学生をしてた

馬鹿なことでケラケラと笑って、授業そっちのけでクラスメートと窓から見える女子たちの点数付けに勤しんだり

勉強なんて、付属品みたいなものだったな

友達と騒ぎたくて、学校に行って…部活で汗をかいて、下校中に食べる間食がやけに美味くて…夕食を食べられなかったり

赤点ぎりぎりのテストの結果に親に怒られて、その5分後にはダチと遊びに行く計画で盛り上がって…また親に怒られて

僕は腕を組むと、窓際に立って外を眺めた

木々に覆われた中庭が目に入る

テーブルとイス、ベンチが、中庭の中に置かれていた

お嬢様学校に来ちゃったな

僕みたいな人間はちょっと場違いな気がする

中高大一貫教育のエスカレーター

中学受験さえうまくいけば、あとは就職まで競争世界から離れていられる

ちょっと羨ましいけど、競争世界に身を置いて、学べることもある

僕は、何も知らないで生きていくより、いろいろと知って必要なものだけをチョイスして生きていくほうがいいな

ガタっという何かがぶつかる音がして、僕は振り返った

教室のドアに背中をぶつけて、こっちを見ている女子が立っていた

見覚えのある子だ

飯島主任からもらった山のような書類の中にあった写真の中にいた

「葉月さくらさん…だよね?」

ドアに貼りつくように立っている私服の彼女は、怯えた目で僕を見るとコクンと頷いた

色素の薄い栗色の長い髪は、くるっとカールしていた

天然パーマなのかな? いや、こういうのは癖っ毛というのだろうか?

小柄で細い体つきの彼女は、大きな目を潤ませて今にも泣きそうな顔をして、氷のように身体を固めて僕を見つめていた