ニヤリと、気を失う前に見たあの笑みを、彼が浮かべた。
「ああ、ちょうどペットを飼おうかと思っていたんだ」
「はぁ?」
――ペット。
いまこの人、ペットって言わなかった!?
人がちょっと感動しかけたというのに、なんて事を言うのだろう、この野郎。
彼の言いように目を丸くしていると、銀髪の彼が右手を差し出してくる。
「アルフレド・リッロだよ。よろしく頼む」
「あ…」
自己紹介をしてくれたらしい。
「あっ、市條梨紅です…!」
慌てて差し出された手を握ると、手の甲にキスを落とされた。
「シジョウがファーストネームかな?」
「あ、いえ、梨紅です」
「そう、リクね。素敵な名前だ」
にこりと微笑まれて思わずぽやんとなりそうになったが、油断大敵だ。
何しろ私を召喚したというのはこのアルフレドなんだから。
なにやら腹に一物持っていそうで怖い…。
「ディノ・ロンバルド! 俺はこの屋敷の庭師なんだ。よろしくリク!」
「よ、よろしく…」
今度は、笑顔を浮かべたディノが、元気よく私の両手を握って上下にシェイクする。
や、やめて…!
激し過ぎて酔っちゃいそうだから!
「レオン・アルベルティニだ」
ディノにシェイクされて参っていると、濃紺の瞳を細めたレオンが私の頭を撫でた。
「……クッ」
ほんのりと色付いた頬を見たレオンが、喉で笑う。
…性格は難有りでも、無駄に顔の整った彼に頭を撫でられたりすれば、顔が赤くなるのは仕方ないんじゃなかろうか…。
「よろしくな、イヌ」
「…はい?」
いまなんと?
「今日からお前はウチのペットだ。俺を呼ぶ時は"ご主人様"が基本だからな?」
「はああ!?」
帰りたいだとか、此処に居る事への気持ちの整理は全然ついてない…だけど。
…とりあえず、私の不幸生活は始まったばかりで。
そして、前途多難である。
fin.
→後書き+おまけ
