アニマル・コンプレックス



まるで慈しむような瞳に、知らず涙が零れた。

…人前で泣くだなんて、どれくらいぶりだろうか。

記憶喪失にでもなったように、元居た世界でのことを思い出せない。


「私、何処に居ても、人に迷惑ばかりかけちゃうよ」


漸く絞り出した言葉は、唐突なものだった。

小さな声を広い上げた少年が微笑む。


「―…ここのボスは、ちょっとやそっとじゃ死なないから大丈夫だよ」


そんなの分からない。
そういう問題ではない。


「……」

「この世界は、キミのいた世界とは違うよ。似ているようでそうじゃない。キミの言う迷惑がコチラではそうじゃないかもしれない」


そんなの。


「…分からない」

「――面倒なヤツだな」


急に、二人とは違う声が聞こえて、反射的に顔を上げる。


いつの間にか、ドアにもたれるように立っていた黒髪の男と目が合った。(私を殺そうとした男だ)


「アルフレド、その女は俺への貢ぎ物だろう?」

「ああ、そのつもりだったよ」

「――だそうだ。うじうじ考えんのは止めろ。考えたって帰れないものは帰れない。お前の所有権は俺にある、俺が此処に居ろと言う限りは居るしかない」

「…まあ、所有権うんぬんは後回しにするにしても、帰れないのは事実だよ。キミは此処いるしかないんじゃないかな?」

「んー…それとも、他に行くアテでもある?」


有るはずが無い。
知ってて聞く辺りが意地が悪い。

けれど、三人共酷い事を言っているようで、実はそうじゃない事を私が一番分かったから。

無理矢理にでも私を此処に置くと言っている辺り、私に居場所を与えてくれるというのだから。


「私が此処に居ても、良いんですか?」


濃紺の瞳を見つめて言う。

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