幸い佐藤さんは同じバスには乗ってこなかった。

 ホッと胸を撫で下ろし座席を確保する。
 一番前の座席、運転席の後ろの位置に陣取り、
 鞄から手鏡を取り出す。
 鏡に映る隼人くんに向かって小声で話しかける。

「ちょっと佐藤さんとはどんな知り合いなのよ?」

 この疑問に、隼人くんが疑問で返してくる。

(なんでお前が瑞樹のこと知ってるんだ?)
「だってクラスメイトだもん」
(俺の中学のクラスメイトだよ、今はセックスフレンド。そんだけだ!)

 そんだけって……身近にそんな人がいたなんて……ちょっとしたカルチャーショックだ。
 セックスフレンドって……体だけの関係ってことでしょ?
 あの佐藤さんが……人って分からないものだ。
 明日からまともに顔を見れない、って言ってもあの子とそんなに仲は良くないけど。
 いつも山田さんとつるんでるし。
 いわゆるグループの違う人って感じかな?
 そういう意味でも住んでる世界は少し異なる。

――セックスフレンドはいらないけど、彼氏なら欲しいんだけどなぁ。

 腕に絡みつく佐藤さんを思い出す。
 ひょっとして、佐藤さんは隼人くんを彼氏みたいに思ってるんじゃないかな?
 だとすると隼人くんは結構ヒドイ奴なのかも知れない。

 そんな感じの事を考えながら、バスに揺られて隼人くんの住むバス停に到着してしまった。

――しまった!家に着いてからの相談をするつもりだったのに!

 時すでに遅し。
 鏡を取り出して隼人くんと会話できるような場所に心当たりなんてない。
 当たって砕けろ精神で家に帰ってみるしかないよねぇ。