「えと、うーんとね……」

 とっさには言葉が浮かんでこない。
 そんな私にお母さんは助け船を出すように朗らかに自分の質問の意図を述べた。

「難しく考えなくて良いのよ。 マリちゃんが元の身体に戻ったときのお祝いのごちそうに作ろうと思ってるだけなんだから」

 お母さんの言葉に驚きと嬉しさ、それにちょっとの戸惑いから短く「えっ!」と言葉を漏らした私にカズちゃんが僅かに目配せをした。

『お母さんには話さない方が良い』
そんな風にも取れるカズちゃんの目配せ意図を感じ、私はそれに従うことにした。
 と、同時に頭の中では必死に好きな食べ物を思い浮かべる。

──んと、『レモンティー』は食べ物じゃない!
──『胃薬』って!もはや飲み物ですらないよ!
──『消化薬』……そこから離れろ!私!!
 数秒間、人生でこれだけ必死に考えたことは無いんじゃないかというくらいに考えた末。

「グラタン! チーズたっぷりの!」

 何とか好きな食べ物を答えることに成功した。

 斜め向かいの席でもカズちゃんが安堵したような表情を見せている。

「そう、じゃあたっぷりと作ってあげるからね!」

 嬉しそうな、心から楽しそうにそう話すお母さんの顔を見て、私の胸の奥で針が突き刺さるようなチクッとした痛みが起こるのを感じた。


──ごめんね、お母さん。でも……私は決めたんだ。