真っ暗な部屋の中、布団の上で重なる二つの影。
 下に私、その上に覆いかぶさるようにしてカズちゃん。
 二人とも微動だにしない……いや、できない。

――『入れ替わり』は無事に完了した。

 今、私たちは動けない。
 お祖父ちゃんの言った通り、『入れ替わり』が始まった瞬間から体の自由が一気に奪われ、意識が混濁して――気が付いたときには私は元の体に戻っていた。
 まだ手足は動かせないままだが、私の目の前に裸のまま覆いかぶさったカズちゃんの体が見えている。
 お祖父ちゃんの話の通りなら……じきに体の感覚が戻ってくるだろう。

――いまは……ただ喜ぼう。こうやって無事に『元に戻れた』ことを。

 私の上に覆いかぶさるカズちゃんを見ながら元通りになった安堵感を味わう。
 カズちゃんはまだ目覚めていないようだ。
 私の胸のあたりに顔を埋めて――まだ眠っている。

 弟のような存在であり、最も親しき時を過ごした――最愛の人。

――この人のために生きよう。

 これからも、きっとカズちゃんの人生には沢山の大変なことが起こるだろう。
 私は――私はそれを助けていきたい。
『入れ替わり』を果たした後で私に芽生えた決意だった。

 こんなことを考えてから、私はこの後に自分を襲うであろう『痛み』に耐える準備をする。

――ああ、痛いんだろうな。

 私たちは動けない――繋がったまま……動けない。