加納欄の誘拐 シリーズ21

あぁ、そういえば、そぅだったよねぇ。


「まだ、完全には戻ってはいないんです」

「でも、僕のことは、覚えててくれてたんですよね」

「はぁ、まぁ」

「日常で、突然何かを思い出したり、誰かと会った時に思い出しそうとか、ないんですか?」

「……今のところは……なんか、すみません」

「いいえ。僕もすみません」

「特に、日常に差し障りがないので、気にしないようにはしてるんですけど」

「そうですか……」

「……1度いろいろ考えたことは考えたんですけど」

「何をですか?」

「記憶のない部分ですけど……」

「どおでした?何か、断片的にでも、思いだしたことありました?」

園田さんが、詰め寄った。

「……結局、思いだせなかったんです」

「…………」

「私、1人で、行動してたのだとばかり思ってたら、違ったんですよ。後で、祥子さんが教えてくれたんですけど、私は、りょう……知り合いと、一緒に行動してたらしいんです」

「知り合い?」

「えぇ……さ、着きましたよ」

あたしは、遼のことを、曖昧にした。

なぜ行動を共にしたのかわからないが、遼の壮絶な最期は、まだ鮮明に覚えていた。

容赦ない孔明師範の銃弾をあび、遼は、あたしの目の前で死んだのだ。

あたしは、首を振り、気合いを入れ直した。

これから、ヤクザと会うのだ。

事が事だけに、慎重に行動をしないと、全てがおかしなことになっていく。

「探り程度でいいぞ」

あたしは、高遠先輩の言葉を、思いだしていた。

「それじゃあ、行きますか」

車から降りて、あたしと園田さんは、保住組と書かれたグレーのビルの中に入っていった。

こういう時に、いかに2人の先輩を頼りにしていたのかがわかる。

園田さんの、緊張している顔を見て、そう思った。

「どうするつもりだい?」

園田さんに聞かれ。

「とりあえず、何も考えてないので、行き当たりで……」

「いつも、そうなんですか?」

「まぁ、先輩達が一緒の時は、ついてってるだけなので……」

そう言って、チャイムを鳴らした。

ピンポ〜ン♪

って、通常なら、聞こえるはずなのに。